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東京高等裁判所 平成12年(ネ)2897号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  別紙遺言目録記載の遺言のうち第二項が無効であることを確認する。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを四分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  別紙遺言目録記載の遺言が無効であることを確認する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件は、亡中山弘江の子であり、同女の相続人である控訴人が、その余の相続人である被控訴人らに対し、同女作成名義の別紙遺言目録記載の遺言が、

(1)  遺言当時において、同女に意思能力がなかったこと、

(2)  遺言のうち第二項及び第三項が建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)二二条一項の土地建物所有権(持分権)の分離処分禁止の規定に違反していること、

(3)  遺言のうち第三項について相続財産の特定を欠いていること、

(4)  遺言のうち第三項及び第四項について「相続させる」との文言を欠いていて遺言者に所有権を相続させる意思が認められないこと、

以上の理由により、全部又は当該部分が無効である旨主張して、その無効確認を求めた事案である。

原判決が、控訴人の請求を全部棄却したので、控訴人が控訴をしたものである。

一  前提となる事実(当事者間に争いがない事実については証拠を掲記しない。)

1 被控訴人中山博之(以下「被控訴人博之」という。)は、亡中山弘江(大正五年一月二一日生、平成八年三月二七日死亡。以下「亡弘江」という。)の長男、被控訴人中山康行(以下「被控訴人康行」という。)は、亡弘江の二男、控訴人は、亡弘江の三男である。

2 亡弘江は、平成七年一〇月ころより、腹部痛を訴え、また、左頸部に腫瘤ができたため、井出医院に通院していたが、同年一一月二〇日、右側腹部痛等を訴えて横浜中央病院で受診したところ、癌の疑いがある旨の診断を受け、同月二四日、同病院に入院し、同年一二月一九日、一旦退院し自宅(以下「中山ビル」という。)に戻ったものの、平成八年二月七日、同病院に再入院し、同年三月二七日、同病院において胆管細胞癌を直接死因として死亡した(甲一、四、弁論の全趣旨)。

3 亡弘江の相続人は、控訴人及び被控訴人らの三名のみであり、その法定相続分は、各三分の一である。

4 亡弘江の口頭弁論終結時の遺産は、概ね別紙遺産目録記載のとおりである。

5 被控訴人博之は、平成八年三月二九日、亡弘江の義理の姪に当たる花本典智代(以下「花木」という。)から、別紙遺言目録記載のとおりの内容の遺言書(乙三、四。以下「本件遺言書」といい、本件遺言書に係る遺言を「本件遺言」という。)を渡されたので、横浜家庭裁判所に申立てをして、平成九年三月六日、本件遺言書につき検認を受けた(同裁判所平成九年(家)第四八一号遺言書検認申立事件。甲二、乙五、証人花木、控訴人)。

6 控訴人は、冒頭掲記のとおり、本件遺言をした当時、亡弘江には意思能力がなかったことなどを理由として、本件遺言の全部又は一部が無効である旨主張しているところ、被控訴人らは、本件遺言が無効であることを争っている(記録上明らかである。)。

二  主たる争点

1 本件遺言をした当時、亡弘江に意思能力が存したか

(一) 控訴人の主張

亡弘江は、横浜中央病院に入院後、胆管細胞癌、肝転移による腹部の痛みを緩和させるため、平成七年一二月一三日から、モルヒネ系製剤であるMSコンチンを服用するようになったが、MSコンチンは、眠気、めまい、不安、視調節機能障害、吐き気、排尿障害、錯乱、せん妄等の強い副作用を生じさせるところ、亡弘江は、MSコンチンの連用による副作用により、入院中から、見舞に来た控訴人が誰か分からなかったり、字を忘れたり、手がふるえて字が書けなくなるなどしたのみならず、消毒薬を誤飲するなど異常な状態に陥っていた上、病状が進行していて手遅れであり、横浜中央病院において効果的な治療を期待することができなかったことから、同月一九日に退院して中山ビルに戻り、二階で控訴人の介護を受けるようになったが、退院後も腹部の激痛を緩和するためMSコンチンを毎日数回服用し続けたため、寝たきりで一人で用を足すことができない状態であり、気が抜けたようで物忘れがひどく本件遺言書を作成したとする同月二六日当時は、MSコンチンの副作用により意識朦朧の状態にあったことに加えて、痴呆状態が進み、自分の排泄した大便を手でつかんで控訴人に差し出すなどの異常な状態にあったものであり、本件遺言は、遺言者である亡弘江の真意を欠く無効なものである。

(二) 被控訴人の主張

亡弘江は、退院当時は元気であり、一人で中山ビルの二階に上がって行くことができたものであり、MSコンチンも朝食後に一日一錠を服用する程度で、様態が悪化した平成八年一月一〇日過ぎころまでは台所仕事の手伝いをすることもあり、風呂も自分で入ることができたもので、遺言をするための意思能力が存在していた。

2 本件遺言は、第二項及び第三項が区分所有法二二条一項の土地建物所有権(持分権)の分離処分禁止の規定に違反しているため、その全部又は一部が無効であるか

(一) 控訴人の主張

亡弘江は、中山ビルについて、専有部分たる各階ごとにそれぞれ四分の一の共有持分権を、敷地利用権についてそれぞれ四分の一の共有持分権を有していたところ、本件遺言書二項では敷地利用権の共有持分権を被控訴人博之及び被控訴人康行に二分の一ずつ相続させるとする一方、本件遺言書三項では、各階の専有部分につき、一階及び二階を被控訴人康行に、三階を被控訴人博之に、四階を控訴人に各相続させるとしており、遺言により敷地利用権と専有部分とを分離して処分しようとするものであり、これは区分所有法二二条一項の専有部分と敷地利用権の分離処分に違反するもので、本件遺言は、全体として無効であり、少なくとも本件遺言書二項及び三項に係る遺言は、無効であるといわざるを得ない。なお、このような強行法規に違反する遺言を「遺言者の真意」を理由として有効とすることはできないというべきである。

(二) 被控訴人の主張

遺言は、人の最期の意思表示であるから、できるだけその意思を尊重し、合理的意思解釈によってその意思の実現を図る必要がある。本件においては、遺言者である亡弘江の意思は本件遺言書の三項にあるとみるのが合理的である。

3 本件遺言は、第三項が相続財産の特定を欠いているため、その全部又は一部が無効であるか

(一) 控訴人の主張

本件遺言書三項には「ビルの所有権」と記載されているのみで、いかなるビルか不明であり、相続財産の特定を欠くから、本件遺言は、その全部が無効であり、仮に全部が無効でないとしても、少なくとも本件遺言書三項に係る部分は無効である。

(二) 被控訴人の主張

亡弘江の相続財産中には、「ビル」といえば中山ビル以外には存在しないから、本件遺言が、相続財産の特定を欠くということはない。

4 本件遺言は、第三項及び第四項について「相続させる」との文言を欠いていて遺言者に所有権を相続させる意思が認められないため、その全部又は一部が無効であるか

(一) 控訴人の主張

本件遺言書三項及び四項は、「相続させる」との文言を欠いており、亡弘江に所有権を相続させる意思が認められないから、本件遺言は、その全部が無効であり、仮に全部が無効でないとしても、少なくとも本件遺言書三項及び四項に係る部分は無効である。

(二) 被控訴人の主張

本件遺言書三項及び四項の文意は、一項及び二項と同様「相続させる」という趣旨であることが明らかである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件遺言をした当時、亡弘江に意思能力が存したか)について

1  前記第二、一の前提となる事実、各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば、亡弘江の意思能力等に関し、次の事実を認めることができる。

(一) 亡弘江は、大正五年一月二一日生まれの女性である。

亡弘江は、平成七年三月二四日付で、日興證券の預金を被控訴人博之に、郵便局の定期預金を被控訴人康行に、あさひ銀行の預金を被控訴人康行と控訴人(各二分の一ずつ)にそれぞれ相続させる、遺言執行者を花木と指定する旨の遺言書(乙一)を作成している。

また、亡弘江は、平成七年一一月一〇日ころまで、一家で営んでいる電気店の店番をし、連絡帳にメモを残すなどしていた(乙六)。

(二) 前記第二、一の前提となる事実のとおり、亡弘江は、平成七年一〇月ころより、腹部痛を訴え、また、左頸部に腫瘤ができたため、井出医院に通院していたが、同年一一月二〇日、右側腹部痛等を訴えて横浜中央病院で受診したところ、癌の疑いがある旨の診断を受け、同月二四日、同病院に入院した。

(三) 亡弘江は、独歩で入院し、入院時の症状としては、吐き気症状はなく、軽度の右側腹部痛があり、左頸部腫瘤部分に軽度の圧迫痛があった。また、亡弘江は、睡眠がやや不良であるが、食欲は普通であり、理解度も普通であった(甲四・一枚目ないし三枚目)。

(四) 亡弘江は、平成七年一二月八日から九日にかけて、自宅に帰り外泊したが、同日午後、腹痛を強く訴えて帰院した。亡弘江は、帰院後、一時腹痛を強く訴えたが、同月一一日ころには、痛みも和らぎ、笑顔が見られるようになり、同月一二日には付き添いの息子と談話していた(甲四・八枚目ないし一〇枚目)。

(五) 亡弘江は、腹痛を和らげる目的で、平成七年一二月九日及び一〇日にはブスコパンを、同月一一日にはレペタンをそれぞれ投与されたが、同月一三日夜から、「定例」として、MSコンチン一〇ミリグラムの投与を受けるようになった。亡弘江は、同月一三日から同月一八日まで、毎日午後九時ころ、MSコンチンを服用していた。なお、亡弘江は、同月一四日午前九時ころ、MSコンチンの服用を促された際、「痛くないからいい」と言って服用を拒否したため、医師の指示で毎日午後九時に服用することになったものである(甲四・九枚目ないし一二枚目)。

(六) MSコンチンは、麻薬性鎮痛剤であって極めて強い鎮痛作用を持つが、他方、眠気、めまい、不安、視調節機能障害、吐き気、排尿障害、錯乱、せん妄等の強い副作用を生じさせるものである(甲三)。

亡弘江は、MSコンチンを服用するようになって以後、腹部痛等が緩和され、睡眠が十分とれるようになり、時折「大分楽になった」などと言って笑顔を見せることがあり、同月一九日、一時退院した。亡弘江は、退院後も、MSコンチンの交付を受けていた(甲一、甲四。一一枚目ないし一三枚目)。

(七) 亡弘江は、退院後、中山ビルの二階で暮らしていたが、MSコンチンについては、その副作用が強いことから、服用する量を減らしていた。亡弘江は、自宅では寝たきりという訳ではなく、天気の良い日には座椅子に座ってテレビを見ていることもあった(被控訴人博之)。

亡弘江は、平成七年一二月末ころ、花木に対し、被控訴人博之らを通じて、一度顔を見せに来てほしい旨伝えた。そこで、花木は、平成八年一月二日午前一〇時ころ、中山ビルを訪れて亡弘江を見舞った。亡弘江は、花木が訪れたときには休んでいたが、花木の顔を見て起き上がり、畳に座って世間話をしたり、昼食を一緒にするなどし、一人でトイレにも行くなど元気な様子であり、午後三時ころまで話をしていたが、意識はしっかりしており、花木に異常を感じさせるようなことはなかった。亡弘江は、その際、花木に対し、「私が亡くなったらみんなの前で開けてくれ」と言って封緘された封筒に入れられた本件遺言書及び平成七年三月二四日付遺言書を渡した。また、被控訴人博之は、当日、亡弘江と花木をポラロイド写真に撮った(甲二、乙二ないし五、証人花木)。

(八) 亡弘江は、平成八年二月六日ころから、疼痛が増悪したため、MSコンチンの投与量を二〇ミリグラムに増量してもらい、さらに、同月七日、横浜中央病院に再入院して治療を受けたが、同月下旬から全身状態が増悪し、同年三月下旬ころ多臓器不全の状態となり、同月二七日死亡した(甲一)。

(九) 花木は、平成八年三月二九日、亡弘江の告別式に出席した際、封緘された封筒に入れられた本件遺言書及び平成七年三月二四日付遺言書を持参し、控訴人及び被控訴人らがいる前で、被控訴人博之に対し、右封筒を手交した(甲二、乙一、三、四、証人花木、控訴人、被控訴人博之)。

(一〇) 前記第二、一の前提となる事実のとおり、被控訴人博之は、横浜家庭裁判所に申立てをして、平成八年三月六日、本件遺言書につき検認を受けた(同裁判所平成九年(家)第四八一号遺言書検認申立事件)。

本件遺言書は、遺言目録記載のとおりの内容であり、四か条からなるものであるが、預貯金については平成七年三月二四日付遺言書の内容と同旨である。右遺言書及び本件遺言書は、いずれも亡弘江の自筆で書かれたものであるところ、その筆跡に乱れはなく、内容も了解可能であり、自筆証書遺言としての形式を充足している(甲二、乙一、三、四。なお、遺言能力の点を除き、本件遺言書〔甲三〕の成立の真正自体については、控訴人も争っていない。)。

2  右1の事実に基づき、亡弘江が、平成七年一二月二六日当時、遺言をすることができる意思能力を有していたか否かを判断する。

亡弘江は、大正五年一月二一日生まれで、本件遺言書の作成日付である平成七年一二月二六日当時、七九歳の高齢であり、MSコンチンの服用により、その副作用としてある程度の意思能力の減退があったことは認められるけれども、本件遺言書の筆跡に乱れはなく、内容も了解可能であり、自筆証書遺言としての形式を充足していること、亡弘江は、MSコンチンの副作用が強いことから、本人ないし被控訴人らの意向により、入院時においても一日一回MSコンチンを服用していたに過ぎず、退院後も服用量を減らしていたものであって、本件遺言書が作成されたとされる同日当時、MSコンチンの副作用の影響を強く受けていたとは考え難いこと、花木は、同日から約一週間を経過した平成八年一月二日、亡弘江を見舞い、午前一〇時ころから午後三時ころまで亡弘江と話をしたが、その際、弘江が、畳に座って世間話をしたり、昼食を一緒にしたりし、一人でトイレにも行けるなど元気な様子であって、意識がしっかりしており、異常を感じさせるようなことはなかったことを考慮すると、平成七年一二月二六日当時、亡弘江について、有効に遺言をするために必要な理解力・判断力が欠けていたとは認められない。

3  控訴人は、亡弘江が、MSコンチンの連用による副作用により、横浜中央病院に入院中から、見舞に来た控訴人が誰か分からなかったり、字を忘れたり、手がふるえて字が書けなくなるなどしたのみならず、消毒薬を誤飲するなど異常な状態に陥っていた上、退院後も腹部の激痛を緩和するためMSコンチンを毎日数回服用し続けたため、寝たきりで一人で用を足すことができない状態であり、気が抜けたようで物忘れがひどく本件遺言書を作成したとする同月二六日当時は、MSコンチンの副作用により意識朦朧の状態にあったことに加えて、痴呆状態が進み、自分の排泄した大便を手でつかんで控訴人に差し出すなどの異常な状態にあったものであり、本件遺言は、遺言者である亡弘江の真意を欠く無効なものである旨主張する。

しかし、右1で認定したとおり、亡弘江は、MSコンチンの副作用が強いことから、本人ないし被控訴人らの意向により、入院時においても一日一回MSコンチンを服用していたに過ぎず、退院後も服用量を減らしていたことからすれば、MSコンチンの連用による副作用により異常な状態に陥っていたと認めることは困難である上、本件遺言書が作成されてから約一週間して亡弘江と面会した花木が、亡弘江には異常を感じさせるような兆候がなかった旨証言していることを考慮すると、平成七年一二月二六日当時、亡弘江が、MSコンチンの副作用及び痴呆状態が進んだことにより、遺言をする能力がなかったと認めることはできないというべきである。

なお、控訴人は、亡弘江が消毒薬を誤飲した旨主張するが、看護記録(甲四・七枚目)には、「今朝(4:00AM?)氷水をNs室へとりに来たところ間違えて吸引ビンを消毒するバケツの中から水をすくって飲んだ との事 0・1%ミルトン液をコップ1/2杯飲水してしまった様子」との記載が存するが、右記載から明らかなように、看護婦において、実際に亡弘江が消毒液を誤飲しているのを現認している訳ではない上、その記載が二本線を引かれて抹消されていること、さらに、右看護記録に記載された出来事は、MSコンチンが投与される前の平成七年一二月六日の事であり、MSコンチンの影響があったとは考えられないことを考慮すると、右記載が実際に生起した出来事を記載したものであると断定するには疑問があるといわざるを得ず、右記載をもって、亡弘江の消毒液誤飲の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠は存在しないから、亡弘江が消毒液を誤飲したとの事実はこれを認めることはできない。また、控訴人本人尋問の結果及び陳述書(甲六)中には、亡弘江について、自分の排泄した大便を手でつかんで控訴人に差し出すなどの異常な行為があった旨の控訴人の主張に沿う供述ないし陳述部分が存するが、これを裏付けるに足りる客観的証拠はなく、加えて、右のような異常行動があれば、控訴人において、兄弟である被控訴人ら又は医師・看護婦等にその事実を伝えるのが通常であると思われるのに、控訴人が医師らに右事実を伝えた形跡がないこと(控訴人、被控訴人博之、弁論の全趣旨)からすると、控訴人の右供述ないし陳述をもって亡弘江に控訴人主張の異常行動があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠は存在しない。

さらに、控訴人は、乙二号証の写真の撮影年月日を争うが、原審における証人花木の証言によれば、右写真は、被控訴人博之が、平成八年一月二日に花木が亡弘江の見舞いに訪れた際撮影したことが明らかである。

そして、他に、右1、2の認定を左右するに足りる証拠は存在しない。

4  以上の次第で、争点1に係る控訴人の主張は、採用することができない。

二  争点2(本件遺言は、第二項及び第三項が区分所有法二二条一項の土地建物所有権(持分権)の分離処分禁止の規定に違反しているため、その全部又は一部が無効であるか)について

1  亡弘江は、中山ビルについて、専有部分たる各階ごとにそれぞれ四分の一の共有持分権を、敷地利用権についてそれぞれ四分の一の共有持分権を有し、控訴人及び被控訴人らも、中山ビルについて、専有部分たる各階ごとにそれぞれ四分の一の共有持分権を、敷地利用権についてそれぞれ四分の一の共有持分権を有しているところ(原審記録に添付の全部事項証明書参照)、本件遺言書二項では敷地利用権の共有持分権を被控訴人博之及び被控訴人康行に二分の一ずつ相続させるとする一方、本件遺言書三項では、各階の専有部分につき、一階及び二階を被控訴人康行に、三階を被控訴人博之に、四階を控訴人に各相続させるとしており、遺言により敷地利用権と専有部分とを分離して異なる相続人らに処分しようとするものであり、これを文言どおり解釈するとすれば、区分所有法二二条一項の専有部分と敷地利用権の分離処分禁止の規定に違反するといわざるを得ない。

2  ところで、遺言の解釈に当たつては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書作成に至つた経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである(最高裁平成五年一月一九日第三小法廷判決・民集四七巻一号一頁参照)。また、右のような遺言者の意思を尊重して可能な限りこれを有効になるようにするとの趣旨からすれば、遺言の一部に無効なものがあるとしても、これが遺言の全体の効力に影響を及ぼすことがない場合には、その部分のみを無効とすることで足り、遺言全体を無効にする必要はないと解される。

3  右1のとおり、本件遺言書二項は、敷地利用権の共有持分権を被控訴人博之及び被控訴人康行に二分の一ずつ相続させるとし、本件遺言書三項は、各階の専有部分につき、一階及び二階を被控訴人康行に、三階を被控訴人博之に、四階を控訴人に各相続させるとしているが、区分所有法により区分所有者はその有する専有部分と敷地利用権との分離処分が禁止されている以上、原則として、敷地利用権又は専有部分のいずれか一方の共有持分のみを相続人らに相続させることは不可能であり、また、敷地利用権と専有部分を分離して処分することができないことになるが、区分所有建物が存在し、これを被控訴人らが住居等として利用しているし、敷地の利用・処分の関係は専有部分の利用・処分に付随するものであることを考慮すると、亡弘江の主たる意思は、これを合理的に解釈すれば、本件遺言書三項に基づき、中山ビルの一階及び二階を被控訴人康行に、三階を被控訴人博之に、四階を控訴人に相続させるということにあったと推認することができ、しかも、中山ビルは、亡弘江とその子ら四名が共有する小規模の区分所有建物であって、専有部分と敷地利用権の一体性の制度を強行的に適用する必要性に乏しく、かつ、区分所有建物の敷地の登記等を混乱させるおそれもないから(区分所有法二二条一項ただし書、二三条参照)、本件においては、本件遺言書二項は無効であるとしても、少なくとも、本件遺言書三項については、例外として、有効であると解するのが相当である。そして、本件遺言書二項が無効であるとしても、これが他の条項に影響を及ぼすことはない上、本件遺言書二項が無効になることにより控訴人が不利益を被ることはなく、不利益を受ける被控訴人らは、亡弘江の意思が本件遺言書三項にあるとし、本件遺言書二項が無効とされることを実質上争っていないから、本件遺言書全体を無効とする必要はなく、本件遺言書全体が無効であるとの控訴人の主張は、これを採用することができない。

三  争点3(本件遺言は、第三項が相続財産の特定を欠いているため、その全部又は一部が無効であるか)について

控訴人は、本件遺言書三項には「ビルの所有権」と記載されているのみで、いかなるビルか不明であり、相続財産の特定を欠くから、本件遺言は、その全部が無効であり、仮に全部が無効でないとしても、少なくとも本件遺言書三項に係る部分は無効である旨主張するが、亡弘江は、別紙遺産目録記載の財産を所有していたのみであり、中山ビル以外に「ビル」を所有していなかったから、本件遺言書三項に「ビル」とあるのは中山ビルを指すことが明らかである。したがって、本件遺言が、相続財産の特定を欠き、全部又はその一部が無効になるということはない。

四  争点4(本件遺言は、第三項及び第四項について「相続させる」との文言を欠いていて遺言者に所有権を相続させる意思が認められないため、その全部又は一部が無効であるか)について

控訴人は、本件遺言書三項及び四項が、「相続させる」との文言を欠いており、亡弘江に所有権を相続させる意思が認められないから、本件遺言は、その全部が無効であり、仮に全部が無効でないとしても、少なくとも本件遺言書三項及び四項に係る部分は無効である旨主張する。しかし、本件遺言書三項及び四項には「相続させる」との文言が存在しないが、本件遺言書では、遺言書という表題のもとに、一項及び二項において、所有不動産等を「相続させる」旨明示されているほか、

「三 ビルの所有権について左記のようにスル

一階及び二階部分は康行

三階部分は博之

四階部分は敏夫

四 日興証券の預金は博之

あさひ銀行の預金は康行と敏夫半分ヅツ

郵便局の預金は康行」

と記載されているのであって、亡弘江において、相続人らに対し、それぞれの財産を右に記載されたとおりに相続させる意思があったことが容易に推認されるところであり、「相続させる」旨の文言を重ねて記載することを失念したと理解するのが相当であるから、右遺言がいわゆる「相続させる」趣旨の遺言としての効力に欠けるところはなく、この点での控訴人の主張は、採用することができない。

五  結論

以上の次第で、控訴人の請求は、別紙遺言目録記載の遺言のうち第二項が無効であることの確認を求める限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、右と一部結論を異にする原判決は一部不当であるから、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)

別紙<省略>

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